1. 企業情報
第一工業製薬は、1909年創業の工業用薬剤メーカーです。界面活性剤や凝集剤などの工業用化学製品を主力とし、生活に密着したアメニティ材料から、産業を支えるポリウレタン材料、高性能な機能材料、電子デバイス材料、さらには健康関連のライフサイエンス製品まで、多岐にわたる事業を展開しています。特に、界面活性剤や凝集剤、合成糊料といった分野で高い技術力を持ち、工業用薬剤の国内大手として知られています。近年は、成長分野として健康機能食品への参入も進めています。
2. 業界のポジションと市場シェア
同社は「工業用薬剤最大手」であり、界面活性剤や凝集剤などの特定の分野で強みを持つとされています。長年の歴史と技術開発への注力により、「技術力に定評」がある点が競争優位性と考えられます。多岐にわたる製品ポートフォリオは、特定の市場変動リスクを分散する効果も期待できます。具体的な市場シェアのデータは提供されていませんが、安定した顧客基盤と技術的な実績を背景に、堅固な事業基盤を持つと見られます。現在の課題としては、原材料価格の変動、為替、米中貿易摩擦や地政学リスクといった外部環境要因が、グローバルに事業を展開する化学メーカーとして影響を及ぼす可能性があります。
3. 経営戦略と重点分野
同社は、中期経営計画「SMART 2030」を掲げ、その前倒しでの推進を表明しています。特に、研究開発を加速し、早期の実績化を目指している点が特徴です。直近の決算短信からは、報告セグメントを従来の6区分から「電子・情報」「環境・エネルギー」「ライフ・ウェルネス」「コア・マテリアル」の4区分へ変更しており、注力事業領域の明確化と経営資源の最適配分を目指していると考えられます。主要な重点分野としては、電子材料分野の「低誘電樹脂」や環境・エネルギー分野の「電池用負極水系複合接着剤」といった次世代技術、およびライフ・ウェルネス分野における製品開発が挙げられます。
4. 事業モデルの持続可能性
第一工業製薬の事業モデルは、多様な産業ニーズに対応する多角的な製品構成により、持続可能性が高いと考えられます。特に、界面活性剤などの汎用化学品で安定した収益基盤を確保しつつ、成長が見込まれる電子材料や電池材料といった高付加価値分野への戦略的投資を行うことで、市場ニーズの変化への適応を図っています。研究開発への積極的な投資は、将来の収益源を確保するための重要な要素であり、これが事業モデルの持続性を支える基盤となります。
5. 技術革新と主力製品
同社は「技術力に定評」があるメーカーであり、研究開発への投資を加速しています。直近の収益を牽引している主力製品としては、主に「電子・情報」セグメントにおける「低誘電樹脂」が大幅に伸長しており、また「環境・エネルギー」セグメントでは「電池用負極水系複合接着剤」が大きく成長しています。その他、「ライフ・ウェルネス」セグメントの「ショ糖脂肪酸エステル（食品・香粧品）」なども堅調に推移しています。これらの製品は、エレクトロニクス、エネルギー、ヘルスケアといった成長市場の需要を取り込むことを目指した技術開発の成果と考えられます。
6. 株価の評価
現在の株価5,730.0円に基づき、各種指標を評価します。
* PER（会社予想）: 14.83倍（業界平均: 20.4倍）
* 業界平均と比較すると、会社予想PERはやや割安圏にあると言えます。
* PBR（実績）: 1.41倍（業界平均: 1.1倍）
* 業界平均と比較すると、PBRはやや割高圏にあると言えます。
* EPS（会社予想）: 386.39円
* 今後1年間の1株当たり利益見通しは386.39円です。
* BPS（実績）: 4,067.17円
* 1株当たり純資産は4,067.17円です。
これらの指標を見ると、利益面での割安感がある一方で、資産価値から見ると割高感も指摘できます。これは、将来の成長期待が株価に織り込まれている可能性も示唆されます。
7. テクニカル分析
現在の株価5,730.0円は、年初来高値6,280円、年初来安値2,107円と比較すると、年初来高値に近い水準にあります。
直近の株価推移をみると、52週変化率が91.39%とS&P500の16.73%を大きく上回る強い上昇を示しており、強いモメンタムが見られます。
50日移動平均線（5,061.40円）および200日移動平均線（3,653.49円）を大きく上回って推移しており、株価は上昇トレンドにあると言えます。
直近10日間の株価は、上下動を伴いながらも、5500円～5900円台で推移しており、本日終値の5730円は直近のレンジ内で推移している状況です。
8. 財務諸表分析
- 売上高：
- 2022年3月期 62,672百万円 → 2023年3月期 65,081百万円 → 2024年3月期 63,118百万円 → 2025年3月期 73,255百万円（過去12ヶ月）
- 2024年3月期は減少しましたが、2025年3月期は大幅な増収となっています。
- 2026年3月期 第1四半期は前年同期比8.6%増の19,046百万円と好調に推移しています。
- 利益：
- 営業利益は2023年3月期が1,188百万円と低水準でしたが、2024年3月期は2,079百万円、2025年3月期（過去12ヶ月）は5,352百万円と大きく回復しています。
- 純利益は2023年3月期に-407百万円の赤字を計上しましたが、2024年3月期は1,174百万円、2025年3月期（過去12ヶ月）は2,585百万円と黒字転換し、大幅に改善しています。
- 2026年3月期 第1四半期も営業利益1,723百万円（前年同期比62.8%増）、親会社株主に帰属する四半期純利益984百万円（前年同期比61.7%増）と大幅な増益となっています。
- 収益性：
- ROE（実績）は6.85%です。成長分野への投資が実を結び、収益性の改善傾向が見られます。
- Operating Margin（過去12か月）は9.05%であり、売上原価の管理や効率的な費用運用が利益に貢献していると考えられます。
- キャッシュフロー：
- 四半期連結キャッシュ・フロー計算書は当第1四半期では作成しておらず、詳細なキャッシュフローの状況は不明です。
- 財務健全性：
- 自己資本比率（実績）は39.9%であり、財務の健全性はまずまずの水準と言えます。
- Current Ratio（直近四半期）は2.13であり、短期的な支払い能力に問題はないと見られます。
- Total Debt/Equity（直近四半期）は68.31%であり、借入は一定程度ありますが、過度に高すぎる水準ではありません。
全体として、2023年3月期を底に業績はV字回復し、特に2025年3月期以降は売上・利益ともに大幅な成長が見られます。
9. 株主還元と配当方針
同社は、継続的な株主還元に努めています。
* 配当利回り（会社予想）: 2.09%
* 1株配当（会社予想）: 120.00円
* 配当性向: 29.62%
配当性向は30%弱であり、利益成長に伴い配当も増加する可能性があります。直近の配当予想では、2025年3月期の年間100円から2026年3月期の年間120円へと増配を計画しており、株主還元への意欲がうかがえます。
また、決算短信には、当四半期の取締役会で自己株式の処分および株式売出しに関連する決議があった旨の記載があり、株主還元策の一環として自社株買いやその活用も視野に入れているものと推察されます。
10. 株価モメンタムと投資家関心
- 株価モメンタム: 52週変化率が91.39%と非常に高く、市場全体（S&P 500の16.73%）を大きく上回る強い上昇モメンタムを示しています。株価は50日移動平均線、200日移動平均線を上回って推移しており、短期・中期的に上昇トレンドが継続していると考えられます。
- 投資家関心: 直近10日間の出来高は日によって変動がありますが、総じて比較的高水準であり、投資家の関心が高いことが示唆されます。
- 信用取引: 信用売残が信用買残を大きく上回る「売り長」の状態（信用倍率0.36倍）であり、今後の株価上昇局面では買い戻しによるさらなる上昇を促す可能性があります。
- 機関投資家保有割合: 41.33%の機関投資家に保有されており、企業への一定の信頼と期待がうかがえます。
- 株価影響要因: 電子材料や電池材料といった成長分野における製品の伸長や中期経営計画の進捗、そして原材料価格や為替動向が株価に影響を与える可能性があります。
11. 総評
第一工業製薬は、歴史ある工業用薬剤メーカーとして、界面活性剤や凝集剤などの基盤事業で安定した収益を確保しつつ、成長が見込まれる電子材料分野（低誘電樹脂）や環境・エネルギー分野（電池材料）への戦略的な投資と研究開発を加速しています。
業績面では、2023年3月期の純利益赤字からV字回復を果たし、2025年3月期および2026年3月期第1四半期では売上・利益ともに大幅な成長を達成しています。特に、成長分野の製品が収益を牽引している点が注目されます。
株価は年初来高値圏で推移しており、PERは業界平均より割安、PBRは割高という状況です。これは、今後の成長期待が株価に織り込まれている可能性があり、強い上昇モメンタムも継続しています。
財務状況は自己資本比率が約4割とまずまずの健全性を保っており、配当利回りも2%台で増配予想と、株主還元にも配慮していることがうかがえます。
全体として、同社は伝統的な強みを活かしつつ、次世代の成長分野への転換を進めている段階にあり、その成果が直近の業績や株価に表れていると考えられます。外部環境リスクには注意が必要ですが、今後の中期経営計画「SMART 2030」の進捗と、高付加価値製品群のさらなる成長が注目されます。
企業情報
| 銘柄コード | 4461 |
| 企業名 | 第一工業製薬 |
| URL | http://www.dks-web.co.jp/ |
| 市場区分 | プライム市場 |
| 業種 | 素材・化学 – 化学 |
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