1. 企業情報
群栄化学工業は、1946年設立の老舗化学メーカーです。主要事業は大きく「化学品事業」「食品事業」「不動産活用事業」の3つに分かれます。特に化学品事業では、フェノール樹脂製品に強みを持ち、電子材料（フォトレジスト、半導体用途など）、高機能繊維（環境関連）、自動車関連樹脂などを製造・販売しています。フェノール樹脂では世界有数のメーカーであり、タイやインドにも生産拠点を持ちグローバルに事業を展開しています。食品事業では祖業である異性化糖をはじめとする澱粉・糖質製品を主に飲料用や業務用として提供。不動産活用事業も行っています。
2. 業界のポジションと市場シェア
群栄化学工業は、フェノール樹脂分野において世界有数の技術と生産能力を持つ企業です。特に電子材料向けの高純度ビスフェノールFやレジスト用樹脂は、半導体・液晶といった先端技術分野の需要を捉えています。高機能繊維も環境関連分野で展開しており、特定のニッチ市場で強みを発揮しています。
しかし、化学品事業においては、液晶用途樹脂で価格競争が激しいことや、中国での高機能繊維の在庫調整などの課題に直面しています。半導体用途はメモリ需要の好調に支えられて堅調ですが、市場全体の景気変動や設備投資動向に左右される側面があります。食品事業もインバウンド需要の回復はあるものの、商品構成の見直しによる販売数量の減少が見られます。
3. 経営戦略と重点分野
決算短信からは具体的な中期経営計画の詳細は読み取れませんが、事業セグメントや製品ポートフォリオから、以下の点が重点分野と考えられます。
* 高付加価値製品への注力: 電子材料用途（半導体・液晶向け樹脂）や環境関連高機能繊維など、特定の性能や用途に特化した高機能素材の開発・提供を継続しています。
* グローバル展開の推進: タイやインドに生産拠点を持ち、成長市場における事業拡大を図っています。
* 収益構造の安定化: 化学品と食品の「両輪」に加え、不動産活用事業により、特定事業のリスクを分散し、安定的な収益確保を目指しています。
2026年3月期の通期業績予想を期中で変更せず維持していることから、会社としては現在の事業戦略と市場見通しに一定の自信を持っていると推測されます。
4. 事業モデルの持続可能性
同社の事業モデルは、フェノール樹脂を核とする高機能化学品と、祖業である澱粉・糖質を扱う食品事業、そして不動産事業という多角化された構造を持っています。この多角化は、特定の市場変動リスクを軽減し、収益の安定化に寄与しています。
化学品事業においては、汎用品ではなく、電子材料や高機能繊維といった成長分野やニッチ市場に特化した製品開発を行うことで、高い技術力に基づく競争優位性を維持しようとしています。また、海外展開を通じて、国内市場の成熟化に対応し、成長機会を追求しています。
食品事業も業務用・飲料用という安定した需要を持つ分野に強みを持っています。市場ニーズの変化への適応力としては、高機能化学品での技術開発と多角化された事業ポートフォリオが、一定の弾力性をもたらすと考えられます。
5. 技術革新と主力製品
群栄化学工業は、フェノール樹脂を基盤とした独自の技術を強みとしています。主力製品は多岐にわたりますが、特に収益を牽引しているのは電子材料用途の化学品です。
* 電子材料向け: RESITOP（フォトレジスト、反応性ポリイミド、フェノール樹脂）、高純度ビスフェノールFなどがあり、液晶パネルや半導体製造プロセスに不可欠な素材を提供しています。
* 産業材料向け: Kynol novoloid fibers（高機能繊維）、球状フェノール樹脂、s-RPナノサンド、Milex特殊フェノール樹脂などがあり、耐熱性、難燃性、高強度といった特性が求められる分野に貢献しています。
* 鋳造関連: シェルモールド用樹脂、NFURAN（フラン樹脂硬化剤）、a-system（自己硬化性鋳型製造システム）、AR SANDなどが挙げられ、高精度な鋳造技術を支えています。
同社はこれらの製品を通じて、多様な産業界のニーズに応え、技術革新を続けています。
6. 株価の評価
現在の株価3,430.0円に対し、各種指標は以下の通りです。
* PER（会社予想）: 13.39倍
* PBR（実績）: 0.44倍
* EPS（会社予想）: 256.24円
* BPS（実績）: 7,778.64円
同社のPER13.39倍は、業界平均PER20.4倍と比較して割安な水準にあります。PBR0.44倍も、業界平均PBR1.1倍と比較して大幅に割安です。これらの指標を見る限り、現在の株価は、同社の資産価値や収益力に対して過小評価されている可能性があります。
7. テクニカル分析
現在の株価3,430.0円は、年初来高値3,620円に近く、年初来安値2,561円からは上昇しています。
* 50日移動平均線（3,353.50円）を上回っており、短期的なトレンドは強気を示唆しています。
* 200日移動平均線（3,001.44円）も明確に上回っており、中長期的なトレンドも上昇基調にあります。
直近10日間の株価推移を見ると、一時的に下落する場面もありましたが、再び上昇に転じており、高値圏での推移が続いています。ただし、出来高は比較的小さく、大幅な上昇や下落には繋がりにくい可能性があります。
8. 財務諸表分析
| 指標 | 過去12か月 | 2025/3/31 予想 | 2024/3/31 | 2023/3/31 | 2022/3/31 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 (百万円) | 30,545 | 30,545 | 30,310 | 31,390 | 29,406 |
| 粗利益 (百万円) | 6,525 | 6,525 | 6,877 | 5,907 | 6,701 |
| 営業利益 (百万円) | 2,293 | 2,293 | 2,729 | 1,660 | 2,490 |
| 純利益 (百万円) | 1,920 | 1,920 | 2,040 | 1,201 | 1,929 |
| ROE (%) | 4.01 | – | 3.91 (実績) | – | – |
| ROA (%) | 2.48 | – | – | – | – |
| 自己資本比率 (%) | 78.9 (実績) | 80.5 (中間) | 78.9 (実績) | – | – |
| 流動比率 | 3.49 | 3.49 (中間) | – | – | – |
| D/E比率 | 1.25% | 0.232 (中間) | – | – | – |
売上高: 過去数年間は300億円前後で推移しており、大幅な成長は見られませんが、比較的安定しています。2025年3月期通期予想は30,545百万円と、前期比微増を見込んでいます。
利益: 営業利益と純利益は過去数年で変動がありますが、直近の2025年3月期中間期決算では前年同期比で営業利益は増加したものの、純利益は微減となっています。通期予想では営業利益が前期と同水準、純利益はやや減少する見込みです。粗利率は約21%〜23%で推移しています。
効率性: ROEは実績で3.91%、LTMで4.01%と比較的低い水準にあります。ROAもLTMで2.48%と、資産を効率的に活用して利益を生み出す力が課題である可能性があります。
健全性: 自己資本比率は実績で78.9%、中間期で80.5%と非常に高く、財務基盤は極めて強固です。流動比率も3.49と高く、短期的な支払能力に問題はありません。D/E比率も1.25%と非常に低く、有利子負債への依存度が極めて低いことが示されています。
全体として、同社は非常に強固な財務体質を持つ一方で、収益性の改善が課題である可能性があります。
9. 株主還元と配当方針
同社の1株配当（会社予想）は100.00円であり、現在の株価に基づく配当利回りは2.92%です。配当性向は34.53%と、安定的な配当を継続する方針が見て取れます。
主要株主リストに「自社(自己株口)」が26.28%と高い割合を占めていることから、過去に継続的な自社株買いを行ってきたことが示唆されます。これにより、発行済株式数を減らし、1株当たりの価値向上にも貢献しています。安定した財務状況を背景に、今後も株主還元には前向きな姿勢を維持すると考えられます。
10. 株価モメンタムと投資家関心
現在の株価は直近で上昇傾向にあり、52週高値圏での推移となっています。50日移動平均線、200日移動平均線を上回っており、短期・中期的にポジティブなモメンタムが見られます。
過去52週間の株価変化率（20.13%）はS&P500の同時期間変化率（18.29%）を上回っており、市場全体と比べても良好なパフォーマンスを示しています。
出来高は平均して大きくないものの、直近では増加傾向が見られます。信用倍率が94.15倍と非常に高く、信用買い残が多い状況は潜在的な売り圧力となる可能性もありますが、信用売残が少ないことから、短期的な需給バランスは買い方に傾いている可能性があります。
投資家関心は高まっていると見られますが、出来高の少なさは、株価の急な変動につながる可能性も示唆しています。
11. 総評
群栄化学工業は、フェノール樹脂を核とした高機能化学品と食品事業を両輪とする安定的な事業基盤を持つ企業です。電子材料向け製品を中心に、高い技術力で特定の市場ニーズに対応しています。財務体質は自己資本比率80%超、低D/E比率、高流動比率と、極めて健全であり、堅牢な経営がなされています。
一方で、ROEやROAといった収益性指標は業界平均と比べて低く、資産効率の改善が今後の課題となるでしょう。株価はPER、PBRともに業界平均と比較して割安水準にあり、財務の健全性が十分に評価されていない可能性があります。株主還元策として安定した配当と過去の自社株買い実績があり、株主還元意識は高いと考えられます。
直近の株価は高値圏で推移しており、上昇モメンタムが見られますが、今後の業績回復や成長戦略の具体化が、さらなる評価向上に繋がる鍵となるでしょう。
12. 企業スコア
- 成長性: B（売上高は過去数年横ばい傾向。LTM売上成長率3.90%、通期予想+1.5%と緩やかな成長見込み）
- 収益性: B（営業利益率LTM 9.54%と悪くはないが、ROE/ROAが低く、収益効率には改善余地がある）
- 財務健全性: S（自己資本比率78.9%、流動比率3.49、D/E比率1.25%と極めて優良）
- 株価バリュエーション: A（PER 13.39倍、PBR 0.44倍ともに業界平均と比較して割安水準であり、価値に対して株価が低い）
企業情報
| 銘柄コード | 4229 |
| 企業名 | 群栄化学工業 |
| URL | http://www.gunei-chemical.co.jp/ |
| 市場区分 | プライム市場 |
| 業種 | 素材・化学 – 化学 |
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