以下は信越化学工業に関する企業分析レポートです。

1. 企業情報

  • 事業内容などのわかりやすい説明
    信越化学工業は、地球環境・デジタル社会の進展に不可欠な素材を幅広く提供する大手化学メーカーです。特に、塩化ビニル樹脂と半導体シリコンウエハーで世界トップシェアを誇ります。その他、シリコーン(ケイ素樹脂)、セルロース誘導体、フォトレジスト、レアアース磁石など、多岐にわたる高機能材料を手掛けています。事業は「生活環境基盤材料」「電子材料」「機能材料」「加工・商事・技術サービス」の4つのセグメントに分かれ、海外売上比率も高いグローバル企業です。
  • 主力製品・サービスの特徴
    • 生活環境基盤材料: 塩化ビニル樹脂が主力。インフラ建設や住宅材料に広く使用され、コスト競争力と安定的な供給体制が強みです。
    • 電子材料: 半導体シリコンウエハー、フォトレジスト、マスクブランクス、希土類磁石などが含まれます。半導体の性能向上に不可欠な高純度・高機能材料を提供し、特に半導体シリコンウエハーは高性能化・微細化を支える基盤材料として需要が高いです。AI関連需要の増加も追い風となっています。
    • 機能材料: シリコーン、セルロース誘導体など。医療・化粧品から自動車・エレクトロニクスまで幅広い産業で使用され、顧客のニーズに合わせたカスタマイズやソリューション提供に強みがあります。
    • 加工・商事・技術サービス: 半導体ウエハー用容器やシリコーン成形品など、主力材料の付加価値を高める製品やサービスを提供しています。

2. 業界のポジションと市場シェア

  • 業界内での競争優位性や課題について
    信越化学工業は、塩化ビニル樹脂と半導体シリコンウエハーにおいて世界首位の座を確立しており、圧倒的な市場シェアと規模の経済性を有しています。これは、長年にわたる技術開発力、安定した品質、強固な顧客基盤、そしてグローバルな生産・供給体制に裏打ちされています。特に半導体材料分野では、高まるAI関連需要に対応する技術力と供給能力が競争優位性となっています。
    課題としては、原材料価格や市況の変動、為替レートの影響を大きく受ける事業構造が挙げられます。また、半導体業界は景気変動や設備投資サイクルに左右されやすく、需要のボラティリティが高い点もリスクとなります。生活環境基盤材料ではアジア市場での価格低迷が見られ、採算悪化の要因となっています。地政学的なリスク(中国の輸出規制、米国の関税政策など)も警戒が必要です。
  • 市場動向と企業の対応状況
    直近ではAI関連需要が堅調に推移しており、半導体材料分野は好調を持続しています。同社は露光材料新拠点(群馬・伊勢崎)の建設を推進するなど、設備投資を通じてこの需要を取り込む戦略です。一方、生活環境基盤材料の北米市場は後半に軟化し、アジア市場では価格が低迷しており、事業環境に地域差が見られます。機能材料では汎用製品の市況回復が弱く、高機能品で収益を補填する動きがあります。同社は高付加価値製品へのシフトやソリューション提供を通じて、市場の変化に対応しています。

3. 経営戦略と重点分野

  • 経営陣が掲げるビジョンや戦略
    決算短信からは具体的な長期ビジョンの記述はありませんが、足元の中期経営計画や設備投資の方向性から、半導体材料分野での競争力強化、高機能・高付加価値品の開発・拡販、そしてグローバルな事業展開を重視していることが伺えます。特に、半導体関連市場の成長を取り込むための積極的な設備投資が継続されています。
  • 中期経営計画の具体的な施策や重点分野
    2026年3月期は設備投資に3,700億円を計画しており、上半期で2,045億円と順調に進捗しています。これは主に半導体材料分野の強化であり、具体的には露光材料の新拠点建設などが挙げられます。既存事業の強化に加え、PFAS代替品のような環境配慮型製品の開発やソリューション提供にも注力し、持続的な成長を目指しています。
  • 新製品・新サービスの展開状況(決算短信参照)
    決算短信からは具体的な新製品の名称は確認できませんが、電子材料事業ではAI関連需要に応えるシリコンウエハーやフォトレジスト、機能材料事業では汎用製品から高機能品へのシフトやPFAS代替ソリューションの提供などが進められています。これらの技術革新が高付加価値化と収益基盤の強化に貢献しています。

4. 事業モデルの持続可能性

  • 収益モデルや市場ニーズの変化への適応力
    同社の収益モデルは、塩化ビニルなどの基礎化学品による安定したキャッシュフローと、半導体シリコンウエハー、フォトレジスト、高機能シリコーンなどのハイテク・高付加価値材料による成長性の両輪で構成されています。この多角的なポートフォリオにより、一部市場の変動リスクを分散しつつ、成長分野の恩恵を享受できる強みがあります。また、AI関連需要の増加や環境規制の強化といった市場ニーズの変化に対し、半導体材料への積極投資や環境対応製品の開発で適応を図っています。
  • 売上計上時期の偏りとその影響
    決算短信からは売上計上時期の大きな偏りに関する記述はありませんでしたが、通期業績予想に対して中間期の進捗率が売上高、営業利益、純利益ともに約53%~55%と、会社想定ペースに沿っていることから、季節性による著しい偏りはないと考えられます。しかし、半導体市場の需給サイクルや原材料市況の変動は業績に影響を与える可能性があります。

5. 技術革新と主力製品

  • 技術開発の動向や独自性
    「電子材料」「機能材料」セグメントにおける継続的な投資と、高純度・高機能材料の開発力に同社の技術的な独自性が見られます。特に半導体分野では、微細化・多層化が進む中で不可欠な先端材料(シリコンウエハー、フォトレジストなど)での高い技術力が強みです。露光材料新拠点の建設は、最先端技術への継続的な投資姿勢を示しています。
  • 収益を牽引している製品やサービス
    事業別利益の内訳や市場動向から、半導体シリコンウエハーやフォトレジストを含む「電子材料」と、塩化ビニル樹脂を中心とする「生活環境基盤材料」が、同社の主要な収益源であることが明らかです。特に電子材料はAI関連需要を取り込み、将来的な成長の牽引役として期待されています。直近では生活環境基盤材料の利益が減少しており、電子材料事業への比重が高まっています。

6. 株価の評価

  • EPSやBPSに基づく計算等を用いて、現在の株価との比較
    • 現在の株価: 4,656.0円
    • 会社予想EPS: 249.01円
    • 実績BPS: 2,251.21円
    • 現在のPER(会社予想ベース): 4,656.0円 ÷ 249.01円 = 18.70倍(提供データと一致)
    • 現在のPBR(実績ベース): 4,656.0円 ÷ 2,251.21円 = 2.07倍(提供データと一致)
      現在の株価は、会社予想PERと実績PBRから合理的な範囲で評価されていると考えられます。
  • 業界平均PER/PBRとの比較
    • 業界平均PER: 20.4倍
    • 業界平均PBR: 1.1倍
    • 信越化学工業PER: 18.70倍 (業界平均より若干割安)
    • 信越化学工業PBR: 2.07倍 (業界平均より割高)
      PERベースでは業界平均より若干割安に見えますが、PBRベースでは同社の高い自己資本比率や資産効率性を考慮しても業界平均より割高な水準にあります。これは、同社が安定した収益性と成長性を評価され、プレミアムが乗っているためと考えられます。

7. テクニカル分析

  • 直近の株価推移を参照して、現在の株価が高値圏か安値圏か
    • 本日株価: 4,656.0円
    • 年初来高値: 5,287円
    • 年初来安値: 3,425円
    • 52週高値: 5,799円
    • 52週安値: 3,425円
    • 50日移動平均: 4,744.08円
    • 200日移動平均: 4,537.04円
      現在の株価4,656円は、年初来高値5,287円からは約12%低い水準であり、年初来安値3,425円からは約36%高い水準です。また、50日移動平均(4,744.08円)を下回り、200日移動平均(4,537.04円)をわずかに上回っています。直近10日間の推移を見ると、4,368円から4,717円の範囲で推移しており、ここ数日はやや上値が重い展開で推移しています。現在の位置は、年初来レンジの中上段あたり、移動平均線との位置関係からは、一旦の上昇トレンドの勢いは弱まっているものの、長期的なサポートラインは維持している状況と言えます。
  • 年初来高値・安値との位置関係
    年初来高値5,287円、年初来安値3,425円に対し、現在の株価4,656円は中程度の水準にあります。安値圏からは大きく上昇していますが、高値圏からは距離があるため、一概に高値圏とは言えません。
  • 出来高・売買代金から見る市場関心度
    • 出来高: 4,659,300株
    • 売買代金: 21,753,853千円
    • Avg Vol (3 month): 7.16M株
    • Avg Vol (10 day): 6.18M株
      本日出来高(4.66M株)は、3ヶ月平均出来高(7.16M株)や10日平均出来高(6.18M株)と比較して低い水準です。売買代金も約217億円と大きいですが、平均的な取引から見るとやや関心度が低下している可能性があります。株価の変動幅も値幅制限内で落ち着いており、特段の市場の過熱感は見られません。

8. 財務諸表分析

  • 売上、利益、ROE、ROAなどの指標を評価
    • 売上高: 過去12か月で2,579,311百万円、2024年3月期は2,414,937百万円。2023年3月期(2,808,824百万円)をピークに減少傾向にありますが、2025年3月期予想では2,561,249百万円と回復を見込んでいます。
    • 粗利益: 過去12か月で920,885百万円。2023年3月期の1,214,107百万円から減少。
    • 営業利益: 過去12か月で670,337百万円。2023年3月期の998,202百万円から減少傾向。
    • 純利益: 過去12か月で497,748百万円。2023年3月期の708,238百万円から減少傾向。
    • ROE: (過去12か月) 11.57%、(実績) 11.98%。良好な水準を維持していますが、前年同期比では低下しています。
    • ROA: (過去12か月) 7.62%。良好な水準を維持していますが、前年同期比では低下しています。
    • Profit Margin: 19.30%、Operating Margin: 25.48%。高い収益性を誇ります。
  • 過去数年分の傾向を比較
    2023年3月期をピークに、売上高、粗利益、営業利益、純利益ともに直近では減少傾向にあります。これは主に生活環境基盤材料の市況悪化や一部電子材料の需給調整が影響しているものと推測されます。ただし、高い利益率(粗利率35.7%、営業利益率25.48%)は維持されており、収益体質の強さは健在です。
  • 四半期決算の進捗状況(通期予想との比較)
    2026年3月期第2四半期(中間期)の進捗状況は、売上高が通期予想の53.5%、営業利益が52.6%、純利益が54.9%であり、会社が想定する通期目標の約半分強に到達しています。会社側は通期予想を据え置いており、下半期での回復を見込んでいると考えられますが、中間期で営業利益が前年同期比△17.7%と減益になっている点には留意が必要です。

9. 財務健全性分析

  • 自己資本比率、流動比率、負債比率の評価
    • 自己資本比率(実績): (2025年3月末) 82.6%。(中間期) 78.7%。極めて高い水準を維持しており、非常に強固な財務基盤を有しています。ただし、中間期で前期末からやや低下しています。
    • 流動比率(直近四半期): 5.90倍。これは流動資産が流動負債の約5.9倍あることを意味し、短期的な支払い能力が極めて高く、流動性リスクは非常に低いと言えます。
    • Total Debt/Equity(直近四半期): 5.57%。負債が極めて少なく、自己資本に対する借入の比率が非常に低いことを示しています。
  • 財務安全性と資金繰りの状況
    自己資本比率82.6%、流動比率5.90、D/E比率5.57%という数値は、同社の財務が極めて健全であり、資金繰りにも十分な余裕があることを示しています。潤沢な手元現金(1.54兆円)もその裏付けとなります。
  • 借入金の動向と金利負担
    • 総負債(直近四半期): 243.91B円 (2,439億円)。
    • 利子費用: — (データなし)。
      有利子負債は2,439億円ありますが、現金及び預金(1.49兆円)を大きく上回るネットキャッシュ(約1.25兆円)を有しており、実質無借金経営に近い状態です。5月に約4,000億円の自己株式取得を実施した影響で、現金及び現金同等物期末残高(6,201億円)は期首(8,827億円)から減少していますが、それでもなお潤沢なキャッシュを有しており、金利負担も非常に小さいと推測されます。

10. 収益性分析

  • ROE、ROA、各種利益率の評価
    • ROE(実績): 11.98% (過去12ヶ月 11.57%)。
    • ROA(過去12ヶ月): 7.62%。
    • Profit Margin: 19.30%。
    • Operating Margin: 25.48%。
      同社のROE、ROA、各種利益率は非常に高い水準にあり、資本効率および収益性が優れていることを示しています。
  • 一般的なベンチマーク(ROE 10%、ROA 5%等)との比較
    ROE 11.98%はベンチマークの10%を上回っており、ROA 7.62%もベンチマークの5%を大きく上回っています。これは、株主資本および総資産を効率的に活用して利益を生み出している証拠です。
  • 収益性の推移と改善余地
    損益計算書のデータを見ると、2023年3月期をピークに収益性はやや低下傾向にあります(売上高営業利益率: 2023年3月期 35.5% → 過去12ヶ月 25.48%)。特に中間期では、営業利益率が前年同期の32.0%から26.0%へ6ポイント低下しています。これは生活環境基盤材料の採算悪化が主な要因であり、汎用製品市況の回復、高付加価値製品へのシフトによる高機能品比率の向上、コスト効率化などが今後の改善余地となります。

11. 市場リスク評価

  • ベータ値による市場感応度の評価
    • ベータ値(5Y Monthly): 1.16
      ベータ値1.16は、市場全体(S&P 500)が1%変動した際に、信越化学工業の株価が平均して1.16%変動する傾向があることを示しています。市場全体と比較して、やや市場感応度が高い銘柄であり、市場の上昇局面では市場以上に上昇する可能性がありますが、下降局面では市場以上に下落するリスクもはらんでいます。
  • 52週高値・安値のレンジと現在位置
    • 52週高値: 5,799.00円
    • 52週安値: 3,425.00円
    • 現在株価: 4,656.0円
      現在の株価は、52週高値から約20%低い水準にあり、52週安値からは約36%高い水準です。レンジの中上段に位置しているため、極端な高値圏でも安値圏でもありません。
  • 決算短信に記載のリスク要因(外部環境、為替、地政学等)
    決算短信に記載されている主要なリスク要因は以下の通りです。
    • 為替変動: 特に米ドルやユーロに対する円のレート変動は、海外売上高が多い同社の業績に大きな影響を与えます(会社想定為替レート: US$ ≒ 145円、EUR ≒ 165円)。
    • 原材料価格・市況変動: 石油化学製品やレアアースなどの原材料価格や、塩化ビニル樹脂・半導体材料などの市況変動は、収益性を直接的に左右します。
    • 半導体需要のボラティリティ: 半導体市場は景気敏感で需要の変動が大きく、同社の電子材料事業に影響を与えます。
    • 中国の輸出規制等の政策リスク: 特定の国・地域における輸出規制や通商政策の変更は、サプライチェーンや事業展開に影響を及ぼす可能性があります。

12. バリュエーション分析

  • 業種平均PER/PBRとの比較
    • 信越化学工業PER: 18.70倍、業種平均PER: 20.4倍
    • 信越化学工業PBR: 2.07倍、業種平均PBR: 1.1倍
      PERで見ると、同社は業界平均よりもやや割安です。しかし、PBRで見ると業界平均を大きく上回っており、割高感があります。これは、同社が業界最高水準の収益性と財務健全性を持つ優良企業として、市場から高い評価を受けているためと考えられます。
  • 目標株価レンジの算出(業界平均倍率適用)
    • 目標株価(業種平均PER基準): 249.01円 (EPS) × 20.4倍 (業界平均PER) = 5,080円
    • 目標株価(業種平均PBR基準): 2,251.21円 (BPS) × 1.1倍 (業界平均PBR) = 2,476円
      業界平均PERを適用した場合の目標株価は概ね5,080円となり、現在の株価4,656円より上になります。一方、業界平均PBRを適用した場合の目標株価は2,476円と現在の株価を大きく下回り、PBRの割高感が際立ちます。これは、同社の資本効率の高さや安定性が業界平均PBRに十分に反映されていないとも解釈できます。
  • 割安・割高の総合判断
    PER基準では若干の割安感があるものの、PBR基準では明確に割高です。しかし、同社の圧倒的な市場ポジション、世界的な競争優位性、極めて強固な財務体質、高い収益性を考慮すると、業界平均のPBRでは評価しきれないプレミアムが株価に乗っていると考えるのが妥当です。一概に割高とは判断しづらく、優良銘柄としての評価が織り込まれていると考えるのが自然です。成長期待や半導体サイクルを考慮すると、現在の株価は適正水準に近い、あるいはやや割安と見ることもできます。

13. 市場センチメント分析

  • 信用取引の状況(信用買残、信用倍率、需給バランス)
    • 信用買残: 4,082,500株(前週比 +81,400株)
    • 信用売残: 226,600株(前週比 +98,400株)
    • 信用倍率: 18.02倍
      信用買残は売残を大きく上回っており、信用倍率も18.02倍と高水準です。これは、株価が上昇すると利益確定売りが出やすい需給状況を示しており、短期的な上値が重くなる可能性があります。ただし、信用買残が極端に増加しているわけではなく、需給が大きく悪化しているとまでは言えない状況です。
  • 株主構成(経営陣持株比率、安定株主の状況)
    • 発行済株式数: 1,984,995,865株
    • 日本マスタートラスト信託銀行(信託口): 17.45%
    • 日本カストディ銀行(信託口): 6.99%
    • 自社(自己株口): 5.64%
    • 機関投資家保有比率: 54.09%
    • インサイダー保有比率: 1.11%
      上位株主の多くが信託銀行系の信託口や生命保険会社、JPモルガンなどの機関投資家であり、安定株主が多いことが伺えます。自己株口も5.64%と存在感があり、株主還元への意識の高さも示しています。経営陣の持株比率は1.11%と比較的低いですが、これは日本の大企業では一般的な水準です。機関投資家の保有比率が高いことから、株価は業績やファンダメンタルズに比較的忠実に反応しやすい傾向があると考えられます。
  • 大株主の動向
    大株主リストからは特段の売買動向は読み取れませんが、信託銀行の信託口が上位を占めていることから、安定的な保有が続いていると推測されます。

14. 株主還元と配当方針

  • 配当利回りや配当性向の分析
    • 配当利回り(会社予想): 2.28%
    • 1株配当(会社予想): 106.00円
    • 配当性向(過去12か月): 41.06%
    • 配当性向(予想・通期): 42.4%
      配当利回り2.28%は市場平均と比較して妥当な水準です。配当性向は41.06%と、利益の約4割を配当として株主に還元しており、安定的な配当政策を維持していることが伺えます。2023年3月期からの増配はなかったものの、前期と同額の配当を維持する方針です。
  • 自社株買いなどの株主還元策
    5月に大規模な自己株式取得(約8,739万株、対価約4,000億円)を実施しており、株主還元に非常に積極的な企業姿勢を示しています。これは発行済株式総数の約4.4%に相当し、1株当たりの価値向上に貢献します。
  • 株式報酬型ストックオプション等のインセンティブ施策
    提供されたデータからは、株式報酬型ストックオプションの実施状況に関する情報は確認できませんでした。

15. 最近のトピックスと材料

  • 適時開示情報の分析(大型受注、新製品、拠点展開等)
    • 2026年3月期 第2四半期決算: 売上高は前年同期比で増加したものの、営業利益は減少。特に生活環境基盤材料の採算悪化が影響しました。しかし、通期予想は据え置き、下半期の回復に期待を示しています。
    • 自己株式取得: 5月に約4,000億円に上る大規模な自己株式取得を実施。これは株主還元への強い意志を示すと同時に、1株当たりの価値向上に貢献する重要な材料です。
    • 設備投資の進捗: 半導体材料分野(露光材料新拠点建設など)への設備投資が順調に進捗しており、AI関連需要の取り込みに向けた経営戦略が着実に実行されています。
    • 電子材料の堅調な需要: AI関連需要に支えられ、電子材料事業は売上高が前年同期比で増加しています。
  • これらが業績に与える影響の評価
    中間期決算では減益となりましたが、通期予想の据え置きと半導体関連への積極的な設備投資は、将来的な収益拡大への期待を抱かせます。特に自己株式取得は、発行済株式数を減らすことで1株当たり利益(EPS)を押し上げ、株価をサポートする効果が期待できます。AI関連需要の堅調さは電子材料事業の成長ドライバーであり、中期的な業績にプラスに作用するでしょう。一方で、生活環境基盤材料の市況悪化が継続するようであれば、通期業績への下振れリスクとなります。

16. 総評

信越化学工業は、基礎化学品と先端材料の両輪で事業を展開する世界的な化学メーカーです。特に塩ビと半導体シリコンウエハーで世界トップシェアを誇り、強固な事業基盤と極めて健全な財務体質を持っています。

強み (Strengths)

  • 圧倒的な市場優位性: 塩ビ・半導体ウエハーで世界トップシェアを保持し、強固な価格決定力と規模の経済性を有します。
  • 技術力と多角的な事業ポートフォリオ: 半導体関連の先端材料から基礎化学品まで多岐にわたり、各分野で高い技術力を保有。事業間でリスクを分散し、安定性と成長性を両立しています。
  • 極めて健全な財務体質: 自己資本比率78.7%、流動比率5.90倍、ネットキャッシュ1.25兆円と、業界屈指の盤石な財務基盤を誇ります。
  • 積極的な株主還元: 大規模な自己株式取得を実施し、持続的な配当も行っています。
  • グローバルな事業展開: 海外売上比率が80%と高く、世界経済の成長を取り込む体制が整っています。

弱み (Weaknesses)

  • 市況変動と為替リスク: 基礎化学品や原材料市況、為替レートの変動が業績に大きく影響します。特に生活環境基盤材料では市況悪化が中間期利益を圧迫しました。
  • 収益性の低下: 直近では収益性がピーク時から低下傾向にあり、中間期決算でも減益となりました。
  • 半導体サイクルへの依存: 電子材料事業の成長性が半導体市場の動向に左右される側面があります。

機会 (Opportunities)

  • AI関連需要の拡大: 半導体シリコンウエハーやフォトレジストなど、AIを支える電子材料への需要が持続的に拡大する見込みです。積極的な設備投資でこの需要を取り込むチャンスがあります。
  • 高機能・高付加価値製品への需要シフト: 環境規制強化(PFAS代替等)や先端技術要求の高まりにより、同社の強みである高機能材料へのニーズが高まる可能性があります。
  • M&A・事業提携の可能性: 潤沢なキャッシュフローと盤石な財務基盤は、成長戦略としてのM&Aや事業提携の機会を探る上での強みとなります。

脅威 (Threats)

  • 地政学リスクと貿易摩擦: 中国の輸出規制や米国の関税政策など、特定の国・地域における政策変更がサプライチェーンや事業活動に影響を及ぼす可能性があります。
  • 競争激化: 特に半導体材料分野では、技術革新のスピードが速く、常に競合他社との技術開発競争に晒されています。
  • 景気後退: 世界経済の減速は、同社の多様な事業分野における需要全体に悪影響を及ぼす可能性があります。
  • ファンダメンタルズの強さ: 極めて健全な財務と高い収益性、世界トップの市場ポジションは、長期的な安定投資先として魅力です。
  • 成長ドライバー: AI関連需要による半導体材料事業の成長は、今後の業績を牽引する重要な要素です。
  • 株主還元への姿勢: 大規模な自己株式取得は、株主への還元意識の高さと潜在的な株価上昇要因として評価できます。
  • 短期的リスク: 直近での市況変動による利益率低下や、半導体サイクルの変動には注意が必要です。

全体として、信越化学工業は市場変動リスクはあるものの、その強靭な事業基盤と財務体質、そして成長分野への積極的な投資により、中長期的な企業価値向上に期待が持てる企業と評価できます。

17. 企業スコア

  • 成長性: A
    • 売上高は直近期で回復傾向。電子材料(半導体関連)はAI需要で堅調。露光材料新拠点建設など大型設備投資も進捗しており、中長期的な成長に期待が持てる。一部事業(生活環境基盤材料)で市況悪化は見られるものの、全体として成長戦略は実行されている。
  • 収益性: A
    • 粗利率35.7%、営業利益率25.48%、ROE 11.57%、ROA 7.62%と、いずれも高い水準を維持しており、ベンチマークを大きく上回る。中間期で利益率が低下した点は注意が必要だが、依然として高い収益体質を保っている。
  • 財務健全性: S
    • 自己資本比率78.7%は極めて高く、文句なしのS評価。流動比率5.90倍、D/E比率5.57%、1兆円を超えるネットキャッシュと、財務安全性は極めて盤石であり、資金繰りにも全く懸念がない状態。
  • 株価バリュエーション: B
    • PERは業界平均より若干割安だが、PBRは業界平均を大きく上回り割高感がある。しかし、同社の圧倒的な優位性、収益力、財務健全性を考慮すると、プレミアムが乗っていると解釈でき、一概に割高とは言えない。優良企業としての評価が織り込まれた水準と判断し、中立的なB評価。

企業情報

銘柄コード 4063
企業名 信越化学工業
URL http://www.shinetsu.co.jp/
市場区分 プライム市場
業種 素材・化学 – 化学

バリュー投資分析(5年予測・参考情報)

将来のEPS成長と配当を予測し、現在の株価が割安かどうかを試算した参考情報です。

現在の指標

株価 4,656円
EPS(1株利益) 249.01円
年間配当 2.28円

予測の前提条件

予想EPS成長率 5.0%
5年後の想定PER 15.0倍

5年後の予測値

EPS成長率と想定PERを基に算出した5年後の理論株価と累計配当です。

予想EPS 317.81円
理論株価 4,767円
累計配当 13円
トータル価値 4,780円

現在価格での試算リターン

現在の株価で購入した場合に期待できる年率換算リターン(CAGR)の試算値です。

試算年率リターン(CAGR) 0.53% (参考:低水準)

目標年率ごとの理論株価(参考値)

目標とする年率リターンを達成するための理論上の買値と、さらに50%の安全域を確保した価格です。

目標年率 理論株価 安全域価格 現在株価との比較
15% 2,377円 1,188円 × 算出価格を上回る
10% 2,968円 1,484円 × 算出価格を上回る
5% 3,746円 1,873円 × 算出価格を上回る

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このレポートは、AIアドバイザー「ジニー (3.0.5)」によって自動生成されました。

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By ジニー

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