1. 企業概要

日本化学工業は、多岐にわたる化学製品を製造・販売する老舗の無機薬品メーカーです。主要な事業領域は、クロム化合物、リン化合物、シリカ製品などの無機化学品と、電子セラミック材料、バリウム化合物、回路材料、電池材料、有機リン化合物などの高機能化学品である機能品です。加えて、不動産賃貸事業も展開しています。
主力製品・サービスは、MLCC(積層セラミックコンデンサ)向けチタン酸バリウムや、電極材、セラミック材、リン製品、クロム塩などであり、これらは各分野で高い市場シェアを有しています。収益モデルは主に企業間取引(B2B)のフロー型ですが、賃貸事業においてはストック型の収益モデルも持ち合わせています。長年にわたる無機化学品の開発・製造実績と特有の技術ノウハウ、既存の顧客基盤が、高い参入障壁として機能していると考えられます。

2. 業界ポジション

日本化学工業は、無機薬品業界において大手メーカーとしての地位を確立しており、リン製品やクロム塩といった基幹製品では高いシェアを誇ります。
市場動向としては、車載・通信向けの電子セラミック材料や農薬原体などの機能品が増収に貢献している一方、電池材料においては原材料市況の変動や販売価格への転嫁遅れが収益を圧迫する状況に直面しています。同社は、中期経営計画において事業拡大と体質強化、グローバル化の推進を掲げ、機能品事業の強化を通じてこれらの市場変動に対応しようとしています。
競合に対する相対的な強みとしては、100年以上の歴史を持つ安定した事業基盤と、多様な化学製品群を持つポートフォリオの広さが挙げられます。これにより、特定の市場変動リスクを分散できる側面があります。一方で、原材料価格の高騰を販売価格に迅速に転嫁できない点は短期的な収益性の弱みとなっています。

【定量比較】業界平均および同一業種区分企業との財務比較

指標 日本化学工業 業界平均 ダイトーケミックス 昭和化学工業 高砂香料工業
PER(倍) 10.63 20.4 14.55 10.41 12.28
PBR(倍) 0.58 1.1 0.73 0.63 1.00
ROE(実績)(%) 5.60 データなし 5.58 5.23 9.75
営業利益率(%) 8.60 (2025/3連) データなし データなし データなし データなし

PERおよびPBRは業界平均や同一業種区分企業と比較して割安な水準にあります。ROEは高砂香料工業には劣るものの、同業他社とは同程度の水準で推移しています。

3. 経営戦略

経営陣は中期経営計画において「事業拡大と体質強化」「グローバル化の推進」「新たな価値の創造」をビジョンとして掲げ、これらを継続的に推進する方針です。重点投資分野としては、決算短信における機能品事業の成長(電子セラミック材料、農薬原体など)から、高付加価値な機能性材料への投資が継続されていると推測されます。
直近の適時開示情報である2026年3月期第2四半期決算短信では、売上高は堅調に推移したものの、営業利益は前年同期比で大幅に減少しました。これは、主に電池材料における原材料市況の変動と販売価格転嫁のタイムラグ、および前年度に計上した棚卸資産評価損の減少効果の剥落が原因です。また、特別利益として固定資産売却益504百万円を計上しています。
これらの状況は、今後、機能品事業の成長ポテンシャルはあるものの、原材料価格の動向と価格転嫁の実行が業績を大きく左右することを示唆しています。会社は通期予想を据え置いており、下期での収益改善(原価改善、販管費見直し、保有資産流動化など)の実行が今後の業績達成の鍵となります。

4. 財務分析

  • 【収益性】
    • 営業利益率(過去12か月):2.80%。2025年3月期連結の8.60%から大幅に低下しており、直近中間期報告では6.62%(前年同期11.61%)と、原材料市況や価格転嫁の要因で収益性が悪化しています。
    • ROE(実績・過去12か月):4.81%。ベンチマークである10%を大きく下回る水準です。
    • ROA(実績・過去12か月):1.91%。ベンチマークである5%を下回っており、資産を効率的に活用して利益を上げているとは言えません。
  • 【財務健全性】
    • 自己資本比率(中間期):63.1%(前期末61.8%)。非常に高い水準を維持しており、財務基盤は強固です。
    • 流動比率(直近四半期):151%(流動資産31,008百万円 / 流動負債20,485百万円)。一時的な負債を賄う能力は概ね良好ですが、ベンチマークとされる200%には届いていません。
    • D/Eレシオ(直近四半期):31.67%(0.3167倍)。負債の割合が低く、非常に健全な水準です。
  • 【成長性】
    • 売上高成長率:過去5年間で売上高は微増傾向(2021/3期34,642百万円 → 2025/3期38,843百万円)。直近中間期売上高は前年同期比+1.5%と堅調です。
    • 利益成長率:営業利益は2023年3月期に大幅に落ち込みましたが、その後回復基調にありました。しかし、直近中間期の営業利益は前年同期比△42.1%と大幅な減益となっており、利益成長は足元で鈍化または後退しています。
  • 【キャッシュフロー】
    • 営業CF(中間期):+1,335百万円(前年同期+3,132百万円)。前年同期比で大幅に減少しています。
    • 投資CF(中間期):△2,188百万円(前年同期△3,078百万円)。主に有形固定資産の取得(設備投資)による支出です。
    • 財務CF(中間期):△345百万円(前年同期△875百万円)。借入金の返済や配当金の支払いなどが主な内訳です。
    • FCF(フリーキャッシュフロー、中間期):△853百万円(営業CF1,335百万円 – 投資CF2,188百万円)。マイナスとなっており、本業で稼いだキャッシュでは設備投資を賄いきれていない状況です。
    • 営業CF/純利益比率:2.02。純利益に対して営業キャッシュフローが大きく、利益の質は非常に高いと評価されます。
    • 配当カバレッジ比率:データなし。
  • 【セグメント別分析】
    • 化学品事業: 売上高9,079百万円(前年同期比ほぼ横ばい)、セグメント利益637百万円(前年同期比△24.3%)。クロムは好調も、一部製品(リン製品等)の低調が影響し減益となりました。
    • 機能品事業: 売上高11,307百万円(前年同期比+5.2%)、セグメント利益458百万円(前年同期比△63.6%)。ホスフィン誘導体や電子材料は伸長しましたが、電池材料や回路材料の利益圧迫が大きく、増収減益となりました。
    • 賃貸事業: 売上高469百万円(前年同期比+2.6%)、セグメント利益275百万円(前年同期比ほぼ横ばい)。安定した収益源となっています。
    • 成長ドライバーは機能品事業の売上拡大ですが、電池材料や回路材料の収益性改善が課題であり、全体の利益を圧迫しています。
  • 【四半期進捗】
    • 通期予想に対する中間期の進捗率は、売上高が51.8%、親会社株主に帰属する純利益が51.4%と計画通りに推移しています。しかし、営業利益の進捗率は43.4%とやや遅れが見られます。これは、前述の利益率悪化が要因であり、下期での収益改善が通期目標達成の鍵となります。

5. 株価分析

  • 【現在の水準】
    • PER(会社予想):10.63倍。業界平均20.4倍と比較すると、割安な水準にあります。
    • PBR(実績):0.58倍。業界平均1.1倍と比較すると、割安な水準にあります。
    • EPS(会社予想):297.33円。BPS(実績):5,457.94円。これに基づくと、業種平均PER基準の目標株価は5,928円、業種平均PBR基準の目標株価は6,004円となり、現在の株価3,160円と比較して理論株価は高い水準です。
  • 【テクニカル】
    • 52週高値3,170円、安値1,733円に対し、現在の株価は3,160円であり、52週レンジの99.3%と高値圏に位置しています。
    • 5日移動平均線(3,053.20円)、25日移動平均線(2,753.36円)、75日移動平均線(2,759.23円)、200日移動平均線(2,425.48円)の全てを現在の株価が上回っており、強い上昇トレンドを示唆しています。ただし、本日株価は年初来高値に迫る水準です。
    • 移動平均線は全て上向きであり、株価が高値圏にあるため、明確なゴールデンクロスやデッドクロスよりも、全体として力強い上値模索の展開にあると言えます。
  • 【市場との比較】
    • 直近1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、1年のいずれの期間においても、日経平均およびTOPIXといった主要市場指数を上回るパフォーマンスを示しており、市場に対する相対的な優位性が見られます。

6. リスク評価

  • ベータ値:0.64。市場全体の変動に対して、株価の変動が比較的小さいことを示しており、市場感応度は低めです。
  • 決算短信記載のリスク要因:
    • 原材料価格の高止まりや変動、およびこれらを販売価格に転嫁できないことによる収益性悪化。
    • 世界経済の動向、地政学的リスク、通商政策の変化、需給バランスの地域別変動が業績に与える影響。
    • 為替レートの変動(海外売上高比率12%)。
  • 事業特有のリスク:化学品業界特有の環境規制や安全基準の強化、機能品事業における技術陳腐化リスクや競争激化などが挙げられます。
  • 52週レンジにおける現在位置:99.3%。高値圏にあり、利益確定売りや市場全体の調整局面における下落リスクには注意が必要です。

7. 市場センチメント

  • 信用買残:187,300株(前週比+25,900株)、信用売残:15,200株(前週比+1,600株)。信用倍率:12.32倍。信用買残の増加と信用倍率の高さは、短期的な株価上昇期待からの買いが増えていることを示唆しており、将来的な売り圧力となる可能性があります。
  • 株主構成と大株主の動向:日本マスタートラスト信託銀行(信託口)、自社取引先持株会、明治安田生命保険といった機関投資家や企業関連の団体が大株主に名を連ねています。これらは比較的安定した株主構成を形成していると考えられ、経営の安定性に寄与していると推測されます。
  • 経営陣の持株比率:個別の開示はありませんが、自社取引先持株会や自社従業員持株会が高い割合で保有しており、これらが安定株主となり長期的な視点での経営を支える可能性があります。

8. 株主還元

  • 配当利回り(会社予想):3.80%。日本株全体で見ても魅力的な水準です。
  • 1株配当(会社予想):120.00円。
  • 配当性向(通期予想ベース):約40.4%(年間配当120円 ÷ 1株当たり当期純利益 297.63円)。健全な範囲内にあります。
  • 配当の継続性・増配傾向:2023年3月期の70円から2026年3月期の予想120円まで、着実に増配傾向にあることが確認できます。
  • 自社株買いの実績と方針:決算短信では「さらなる株主還元強化に取り組む」と記載されており、今後の自社株買いの実施も期待されますが、現時点での具体的な発表はありません。

9. 総合評価

  • 【投資ポイント】
    • 割安なバリュエーション: 業界平均と比較してPER、PBRともに割安な水準にあり、企業価値評価向上の余地がある。
    • 高水準な株主還元: 3.80%の配当利回りと増配傾向、自己資本比率の高さは、安定した株主還元への期待を高める。
    • 強固な財務基盤と高い利益の質: 自己資本比率63.1%と高く、営業CF/純利益比率が2.02と利益の質が極めて優良。
  • 【強み】
    • 長年の実績と高いシェアを持つ無機化学品事業基盤。
    • 高成長が期待される機能品事業(電子セラミック材料等)の拡大。
    • 高い自己資本比率に裏打ちされた強固な財務体質。
  • 【弱み】
    • 原材料市況の変動による利益率の低下と販売価格への転嫁遅れ。
    • 機能品事業の一部(電池材料、回路材料)における収益性の課題。
    • 営業利益の通期予想に対する中間進捗の遅れ。
  • 【機会】
    • 車載・通信関連の需要増加に伴う電子セラミック材料のさらなる成長。
    • コスト構造改革や価格転嫁による収益性改善。
    • 保有資産の流動化による財務戦略の柔軟性向上。
  • 【脅威】
    • 原材料価格の高止まりや再度の高騰。
    • 世界経済の減速や地政学リスクによる需要の減少。
    • 競合他社との価格競争激化や技術革新への対応遅れ。
  • 【注目すべき指標】
    • 四半期ごとの営業利益率の推移(特に機能品事業の利益率改善状況)。
    • 電池材料における価格転嫁の進捗と原材料市況の変動。
    • 通期営業利益3,200百万円の達成に向けた下期の具体的な改善策の実行状況。

10. 企業スコア

  • 成長性: C
    • 通期の売上高成長率予想が+4.3%であり、基準C(売上成長率 0-5%)に該当します。
  • 収益性: D
    • ROE(過去12か月):4.81%(5%未満)。
    • 営業利益率(過去12か月):2.80%(3%未満)。
    • 双方とも基準D(ROE 5%未満 かつ 営業利益率 3%未満)に該当します。
  • 財務健全性: A
    • 自己資本比率:63.1%(60%以上)。
    • 流動比率:151%(150%以上だが200%未満)。
    • 自己資本比率が60%以上であるものの、流動比率が200%未満のため、基準Aに該当します。
  • 株価バリュエーション: S
    • PER:10.63倍(業界平均20.4倍の約52%)。
    • PBR:0.58倍(業界平均1.1倍の約52%)。
    • PER/PBR共に業界平均の70%以下であるため、基準S(大幅割安)に該当します。

企業情報

銘柄コード 4092
企業名 日本化学工業
URL http://www.nippon-chem.co.jp/
市場区分 プライム市場
業種 素材・化学 – 化学

バリュー投資分析(5年予測・3シナリオ参考情報)

将来のEPS成長と配当を3つのシナリオ(楽観・標準・悲観)で予測し、現在の株価が割安かどうかを試算した参考情報です。

現在の指標

株価 3,160円
EPS(1株利益) 297.33円
年間配当 3.80円

シナリオ別5年後予測

各シナリオの成長率・PER前提と、それに基づく5年後の予測株価・期待リターンです。

シナリオ 成長率 将来PER 5年後株価 期待CAGR
楽観 19.2% 12.2倍 8,762円 22.7%
標準 14.8% 10.6倍 6,302円 14.9%
悲観 8.9% 9.0倍 4,111円 5.5%

目標年率別の理論株価(標準シナリオ)

標準シナリオに基づく参考値です。「理論株価」は、この価格以下で購入すれば目標年率リターンを達成できる可能性がある株価上限です。

現在株価: 3,160円

目標年率 理論株価 判定
15% 3,148円 △ 0%割高
10% 3,931円 ○ 20%割安
5% 4,961円 ○ 36%割安

【判定基準】○X%割安:現在株価が理論株価よりX%低い / △X%割高:現在株価が理論株価よりX%高い

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By ジニー

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