1. 企業情報
シキボウは1892年設立の老舗紡績企業です。長年の歴史を持つ繊維事業を基盤としつつ、近年は事業ポートフォリオの変革を進めています。事業内容は大きく3つのセグメントに分かれています。
* 繊維事業 (売上構成比52%): 紡績糸、加工糸、織布、ニット製品、寝装品などを製造・販売しています。特に寝装、ニット、シャツ地に強みを持っています。
* 産業材事業 (売上構成比34%): 製紙用ドライヤーカンバスやフィルタークロスといった産業分野で利用される機能性素材を提供しています。
* 不動産・サービス事業 (売上構成比14%): 都市開発を含む不動産賃貸・売買や、損害保険の販売など多岐にわたるサービスを提供しており、安定的な収益源となっています。
同社は、伝統的な繊維事業に加え、航空機向けなど高機能な機能材の育成と海外事業の強化を推進しています。
2. 業界のポジションと市場シェア
シキボウは「紡績名門」と称されるように、日本の繊維産業において長い歴史と実績を持つ企業です。その歴史の中で培われた技術力や品質は、一定の競争優位性であると考えられます。
現在は、事業ポートフォリオの見直しを進めており、特に成長分野として「航空機向け含む機能材」の育成に注力しています。これは、価格競争が激しい汎用品市場ではなく、高付加価値なニッチ市場での競争優位性を確立しようとする動きと読み取れます。
具体的な市場シェアのデータは開示されていませんが、多角化戦略により特定の市場の変動リスクを分散する構造を目指していると考えられます。課題としては、伝統的な繊維製品市場の成熟化や、原材料価格の変動、海外企業との競争激化などが挙げられます。
3. 経営戦略と重点分野
同社は、中期経営計画「TG25-27」（2025年4月開始）を基軸に経営戦略を推進しています。長期ビジョン「Mermaid 2042」では、2030年までに売上高550億円、営業利益36億円という目標を掲げ、売上高と利益の大幅な伸長を目指しています。
具体的な戦略としては、以下の点が挙げられます。
* 「稼ぐ力の向上」: 既存事業の収益性改善と効率化への取り組み。
* 「新中核事業の成長・拡大」: 特に機能材料事業を成長領域と位置づけ、セグメントを独立させるなどの組織再編を行い、集中的な投資と育成を図っています。航空機用途などの複合材料や食品・化成品がその中心です。
* 「海外事業強化」: グローバル市場での展開拡大を目指しています。
直近の第1四半期決算では、機能材料事業への先行投資（新工場の減価償却費増など）が利益を圧迫しているものの、将来の成長に向けた基盤作りに取り組んでいます。
4. 事業モデルの持続可能性
シキボウの事業モデルは、伝統的な繊維事業、産業資材、不動産・サービス、そして成長分野である機能材料といった多角的なポートフォリオによって、持続可能性を高めようとしています。
* 繊維事業: 高付加価値原糸や機能性ユニフォーム、輸出向け衣料など、市場ニーズを捉えた差別化戦略を進めることで収益確保を目指しています。円安は輸出型事業にとって追い風となる可能性があります。
* 機能材料事業: 航空機用途や食品分野といった成長市場に注力することで、将来の収益柱を育成しています。これは、市場ニーズの変化に適応し、高収益体質への転換を図るものです。
* 不動産・サービス事業: 不動産賃貸収入は景気変動の影響を受けにくい安定的な収益源であり、事業全体の安定性に寄与しています。リネンサプライや物流事業も、インバウンド回復や新規顧客獲得により堅調に推移しています。
これらの事業分散と成長分野への傾注が、長期的な事業モデルの持続性を支える要素と考えられます。
5. 技術革新と主力製品
シキボウは、長年培った繊維技術を基盤に、高機能素材開発に注力しています。
* 機能材料: 航空機用途の複合材料や、食品用の増粘安定剤などの化成品が注目される主力製品です。特に複合材料は増収に貢献しており、今後の成長牽引役となることが期待されています。新工場の稼働は、これらの製品の供給能力強化に繋がります。
* 繊維製品: 高付加価値原糸、機能性素材を用いたユニフォーム、中東向け輸出衣料などが収益に貢献しています。快適性や衛生面に配慮した独自の加工技術も強みです。
同社の強みは、伝統的な製造技術と最新素材の研究開発を組み合わせ、市場のニーズに合わせた製品をタイムリーに提供できる点にあると考えられます。
6. 株価の評価
シキボウの株価は989.0円です。
* PER（会社予想）: 17.91倍
* PBR（実績）: 0.36倍
* EPS（会社予想）: 55.22円
* BPS（実績）: 2,744.59円
* 業界平均PER: 21.7倍
* 業界平均PBR: 1.0倍
現在のPER (17.91倍) は業界平均 (21.7倍) を下回っており、PBR (0.36倍) は業界平均 (1.0倍) を大きく下回っています。このことから、株価は業界平均と比較して割安な水準にあると考えられます。
理論株価を計算すると以下のようになります。
* PER基準の理論株価: 55.22円 (EPS) × 21.7倍 (業界平均PER) = 約1,199円
* PBR基準の理論株価: 2,744.59円 (BPS) × 1.0倍 (業界平均PBR) = 約2,744円
現在の株価は、これらの理論株価と比較して低い水準にあります。特にPBRが1倍を大きく下回り、帳簿上の純資産価値よりも低い評価を受けている状況です。
7. テクニカル分析
直近10日間の株価は、1000円台から989円へと若干下降傾向にあります。
* 本日終値: 989円
* 年初来高値: 1,054円
* 年初来安値: 874円
* 50日移動平均線: 1,019.08円
* 200日移動平均線: 994.64円
現在の株価989円は、年初来高値や52週高値、そして50日移動平均線・200日移動平均線のいずれをも下回っています。これは、短期および中期的に株価が高値圏ではないことを示唆しています。直近の株価推移はやや軟調であり、現在の株価は移動平均線の下に位置することから、安値圏に近い位置にあるか、あるいは上値が重い展開が続いていると判断できます。
8. 財務諸表分析
売上高:
2022年3月期から過去12ヶ月にかけて、売上高は着実に増加傾向にあります。
* 2022年3月期: 35,670百万円
* 2023年3月期: 37,893百万円
* 2024年3月期: 38,681百万円
* 過去12ヶ月: 39,087百万円
直近の四半期売上高成長率（前年比）は+2.10%と緩やかな成長を継続しています。
利益:
粗利益は増加傾向にあるものの、営業利益は2024年3月期の1,429百万円から過去12ヶ月で1,346百万円へとわずかに減少しています。純利益については変動が大きく、2023年3月期には税金費用の一過性要因により大きく伸びた後、2024年3月期は800百万円、過去12ヶ月は914百万円となっています。
* 営業利益率（過去12ヶ月）は2.59%と低い水準です。
* EBITDAは2022年3月期から過去12ヶ月にかけて増加傾向にあり、本業の稼ぐ力は一定程度維持されています。
キャッシュフロー:
データからキャッシュ・フロー計算書の直接的な比較はできませんが、直近四半期の現金及び預金は6,354百万円と一定の現金を保有しています。
収益性指標:
* ROE（実績）: 2.64% (過去12ヶ月では2.58%)
* ROA（過去12ヶ月）: 1.00%
これらの指標はいずれも低水準であり、資本効率や資産活用効率に課題があることを示唆しています。
財務健全性:
* 自己資本比率（実績）: 41.1%
* 流動比率（直近四半期）: 1.51
* 有利子負債 / 自己資本比率 (Debt/Equity Ratio、直近四半期): 76.20%
自己資本比率は40%を超えており、財務基盤は比較的健全であると言えます。流動比率も1.51と短期的な支払い能力に問題はない水準です。借入金はありますが、全体として財務の健全性は維持されています。
9. 株主還元と配当方針
シキボウの株主還元については、以下の特徴があります。
* 配当利回り（会社予想）: 5.06%
* 1株配当（会社予想）: 50.00円 (中間25円、期末25円)
* 配当性向: 68.73%
配当利回りは5%超と高水準であり、株主への還元には積極的な姿勢が見られます。過去5年間の平均配当利回りも約5.07%と、安定して高水準の配当を継続していることがわかります。しかし、配当性向が68.73%と高めであり、今後の利益成長が伴わないと、この水準の配当を維持することが難しくなる可能性も考えられます。
自社株買いについては、提供データからは直近の具体的な実施状況は不明です。
10. 株価モメンタムと投資家関心
- 株価の52週変化率は-2.07%であり、同時期のS&P 500の+13.03%と比較すると、市場全体に対して相対的にパフォーマンスは劣っています。
- 直近の株価は50日移動平均線および200日移動平均線を下回っており、短期および中期的には株価上昇の勢いは弱いと見られます。
- 出来高は直近で20,900株と少なく、市場の投資家からの関心は現状では特別高いとは言えません。3ヶ月平均出来高 (48,150株) や10日平均出来高 (42,250株) も低い水準です。
- 信用倍率は14.84倍（信用買残167,700株、信用売残11,300株）と買い残が売り残よりも多く、需給面では買い圧力が弱い状況にある可能性があります。
株価に影響を与える要因としては、中期経営計画「TG25-27」における機能材料事業への投資がどのように収益に結びつくか、原材料価格やエネルギー価格の動向、そして為替変動などが挙げられます。
11. 総評
シキボウは、長年の歴史を持つ繊維事業を基盤としつつ、高付加価値の機能材料や安定収益源である不動産・サービス事業を育成することで、事業ポートフォリオの変革を図っています。売上高は緩やかに増加傾向にある一方で、機能材料事業への先行投資の影響で、直近の利益率は低水準にとどまっています。
財務状況は、自己資本比率が41.1%と健全であり、短期的な流動性も問題ありません。株価のバリュエーションはPER、PBRともに業界平均と比較して大幅に割安感がある水準にあります。配当利回りは5%超と高く、株主還元には積極的です。
しかし、直近の株価は移動平均線を下回っており、出来高も少ないことから、現時点での投資家関心は限定的と見られます。中期経営計画で掲げた成長戦略が具体的な収益改善に繋がり、企業価値の向上にどの程度貢献するかが今後の注目点となるでしょう。
12. 企業スコア
- 成長性: B（中立）
- LTM売上成長率は約1.01%、3年CAGRは約3.1%と、売上は堅実ながら緩やかな成長傾向にあります。
- 収益性: C（課題あり）
- 過去12ヶ月の営業利益率は2.59%と低水準であり、ROE（2.64%）やROA（1.00%）も資本効率の改善が課題であることを示唆しています。
- 財務健全性: A（良好）
- 自己資本比率は41.1%、流動比率は1.51、D/Eレシオは76.20%と、主要な財務指標は概ね健全な水準にあります。
- 株価バリュエーション: S（非常に割安）
- PER（会社予想）17.91倍は業界平均21.7倍を下回り、PBR（実績）0.36倍は業界平均1.0倍を大きく下回っており、相対的に非常に割安な評価を受けていると考えられます。
企業情報
| 銘柄コード | 3109 |
| 企業名 | シキボウ |
| URL | http://www.shikibo.co.jp/ |
| 市場区分 | プライム市場 |
| 業種 | 素材・化学 – 繊維製品 |
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